人材開発支援助成金(人材育成支援コース)は、従業員の職務に必要な知識や技能を育てるための研修を実施した企業に対して、国が研修費用や研修期間中の賃金の一部を支援する制度です。
「従業員のスキルアップを図りたい」「新しく入社した人材を計画的に育てたい」「有期雇用の従業員を戦力化したい」など、幅広い企業で活用されています。
研修内容や目的に応じて適切な訓練を選べるため、初めて助成金を利用する企業にも分かりやすく構成されています。
制度の概要
人材育成支援コースは、従業員の教育訓練にかかる負担を軽減し、企業が継続的に人材育成へ取り組めるよう支援する制度です。
訓練の種類は3つあり、それぞれ対象者・目的・期間などが異なります。
- 人材育成訓練(OFF-JT)
10時間以上の座学研修など、専門的知識や技能の習得を目的とした訓練。 - 認定実習併用職業訓練(OFF-JT+OJT)
厚生労働大臣の認定を受け、6か月以上の計画的な訓練を行う実践的な育成プログラム。 - 有期実習型訓練(OFF-JT+OJT)
正社員経験の少ない有期契約労働者等を、正社員へと育成するための2か月以上の訓練。
それぞれの訓練で助成率や要件が異なりますが、どれも企業の人材育成に直結する内容になっています。
人材育成訓練(OFF-JT)
人材育成訓練は「外部研修」「専門講師による社内研修」などを通じて、一定時間以上の座学を行うシンプルな訓練です。
もっとも利用しやすく、多くの企業が活用している訓練です。
人材育成訓練の主な要件
- 専門的な知識・技能の習得を目的とした訓練であること
職務に関連した内容である必要があります。 - すべてOFF-JTで行うこと
実務を伴わない座学形式の研修であれば対象になります。 - 10時間以上の訓練であること
通学・オンライン(同時双方向型)・eラーニングなど、複数の方法で実施可能です。 - 事業外訓練または事業内訓練のいずれかとして実施すること
事業外訓練は外部講座等の利用、事業内訓練は自社で講師を招いたり、基準を満たした研修を社内で行う訓練です。
人材育成訓練の助成内容
経費助成
研修にかかった費用の一部を国が負担します。
| 雇用形態 | 通常の助成率 | 賃金要件等を満たす場合 |
|---|---|---|
| 中小企業の正規社員 | 45% | 60% |
| 中小企業以外の正社員 | 30% | 45% |
| 有期契約社員 | 70% | 85% |
賃金助成(1人1時間あたり)
従業員が研修を受けている間に企業が負担する賃金を補助します。
| 雇用形態 | 賃金助成額 | 賃金要件等を満たす場合 |
|---|---|---|
| 中小企業 | 800円 | 1,000円 |
| 中小企業以外 | 400円 | 500円 |
認定実習併用職業訓練(6か月以上)
認定実習併用職業訓練は、特に新卒者・若手人材などに対して有効な高度訓練です。
計画的なOFF-JTとOJTを組み合わせ、より実践的なスキル習得を目指す内容となります。
認定実習併用職業訓練の主な要件
- 厚生労働大臣の認定を受けた訓練であること
「大臣認定」が必要です。 - 6か月以上2年以内の訓練期間で実施すること
- 総訓練時間数のうち、OFF-JTが10時間以上あること
- OJTを実施し、適切な指導者が指導すること
社内教育担当者やOJTリーダーなどが該当します。 - OFF-JTおよびOJTの状況を記録し、訓練終了後に能力評価を行うこと
評価結果はジョブ・カード様式に基づき作成します。
認定実習併用職業訓練の助成内容
経費助成
| 通常の助成率 | 賃金要件等を満たす場合 | |
|---|---|---|
| 中小企業 | 45% | 60% |
| 中小企業以外 | 30% | 45% |
賃金助成(1人1時間あたり)
| 賃金助成額 | 賃金要件等を満たす場合 | |
|---|---|---|
| 中小企業 | 800円 | 1,000円 |
| 中小企業以外 | 400円 | 500円 |
OJT実施助成額(1人1コース当たり)
| 賃金助成額 | 賃金要件等を満たす場合 | |
|---|---|---|
| 中小企業 | 20万円 | 25万円 |
| 中小企業以外 | 11万円 | 14万円 |
有期実習型訓練(2か月以上)
有期実習型訓練は、正社員登用を目的としたステップアップ型の訓練です。
正社員経験が不足している有期契約労働者を対象に、実務を通じて育成していく内容です。
有期実習型訓練の主な要件
- OFF-JTとOJTを組み合わせて実施すること
計画的に両方を実施する必要があります。 - 訓練期間が2か月以上であること
- 総訓練時間のうち、OJTが1割以上9割以下であること
- 適切な指導者がOJTを担当すること
- 訓練終了後に職務能力評価を実施すること
- 対象者が有期契約労働者であること
正社員化を見据えた訓練であるため、対象者には一定の要件があります。
有期実習型訓練の助成内容
経費助成
| 通常の助成率 | 賃金要件等を満たす場合 |
|---|---|
| 75% | 100% |
賃金助成(1人1時間あたり)
| 賃金助成額 | 賃金要件等を満たす場合 | |
|---|---|---|
| 中小企業 | 800円 | 1,000円 |
| 中小企業以外 | 400円 | 500円 |
OJT実施助成額(1人1コース当たり)
| 賃金助成額 | 賃金要件等を満たす場合 | |
|---|---|---|
| 中小企業 | 10万円 | 13万円 |
| 中小企業以外 | 9万円 | 12万円 |
賃金要件・資格手当要件による加算
下記のいずれかを満たすと助成率・助成額が増加します。
- 訓練修了後の賃金が5%以上上昇
- 資格等手当を導入し、支給により3%以上上昇
企業が対象となる条件
助成金を利用するためには、次の条件を満たしている必要があります。
- 雇用保険適用事業所であること
- 労働関係法令に違反していないこと
- 訓練計画を適切に作成できること
- 訓練期間中の賃金を支払うこと
対象となる労働者
訓練の種類により対象範囲は異なりますが、共通して次の条件が重要です。
- 訓練期間中に被保険者であること
- 訓練計画書に対象労働者として記載できること
- 過去に同様の訓練を受けていないこと(有期実習型訓練など)
それぞれの訓練ごとに詳細な条件がありますが、基本的には「事業主が適切に育成できる立場にあること」と「訓練を受講する従業員が職務に必要な知識を学ぶ目的であること」がポイントです。
申請の流れ
助成金は「訓練開始前の提出」が非常に重要です。
- 訓練計画書の作成
- 訓練開始日の前日までに提出
- 訓練の実施(OFF-JT・OJT)
- 訓練終了後に賃金支払い
- 支給申請(訓練終了後2か月以内)
- 審査後、助成金が支給される
初めて利用する企業は、計画書の作成段階で専門家へ相談することをおすすめします。
まず最初に行うべきこと
- 自社がどの訓練に当てはまるかを整理する
- 対象となる従業員を確認する
- 訓練の内容と時間数を明確にする
- 計画書作成の前に、ハローワークへ相談する
助成金は「事前準備がすべて」と言っても過言ではありません。
適切に準備すれば、企業の負担を大きく減らしながら、効果的な人材育成が実現できます。