助成金を申請する際、最も注意が必要なのが 「労務リスク」 です。
要件を満たしていたとしても、日常的な労務管理に不備があると、申請が認められなかったり、トラブルにつながるケースがあります。
本記事では、助成金申請における労務リスクと、企業が事前に注意すべきポイントをわかりやすく整理しています。
1. 労務リスクとは何か?
労務リスクとは、労働時間管理・給与計算・雇用契約などに関する不備によって生じるリスク を指します。
助成金の審査では、
- 労働時間の記録
- 賃金の支払い
- 契約内容との整合性
- 就業規則や協定類の有無
などが確認されるため、日常的な管理が不十分だと申請に影響します。
また、不備があると “不支給”や“意図せぬ不正受給” と判断されるリスクが高まります。
2. 助成金申請で問題になりやすい労務リスク
(1)出勤簿と賃金台帳の不一致
最も多いリスクです。
例:
- 出勤簿の時間数と賃金台帳の支給時間が一致しない
- 遅刻・早退が記録されていない
- 時間外労働の割増率の計算ミス
少しの不一致でも審査では重視されます。
(2)雇用契約書(労働条件通知書)の内容と実態が違う
助成金の条件を満たすためには、契約内容と実際の勤務状況が一致していること が前提です。
例:
- 契約上は「週30時間」だが、実態は「週25時間」
- 時給が変更されたのに、書面が更新されていない
- 契約更新記録が残っていない
契約書の整合性が取れていない場合は、申請が認められない可能性があります。
(3)就業規則と運用が一致していない
就業規則は助成金の審査に影響します。
例:
- 規定と実際の労働時間が異なる
- シフト制に変更したが就業規則を改定していない
- 給与計算方法が規定と一致しない
実態と規則が一致していないと、制度要件を満たしていないと判断されることがあります。
(4)36協定の未締結・未届
残業があるにもかかわらず、
- 36協定が締結されていない
- 労基署へ届出されていない
- 期限切れ
といった状況は 審査で必ず指摘されるリスク になります。
(5)賃金支払いの遅延
賃金の遅延や未払いは、大きなマイナス要素です。
- 支給日が守られていない
- 控除が不適切
- 残業代未払い
などがあると、助成金の申請が受理されない可能性があります。
(6)雇用保険の加入漏れ
助成金の多くは 雇用保険への適正加入 が前提です。
加入すべき社員を加入させていないと、要件を満たしません。
3. 助成金申請で労務リスクが問題になる理由
助成金は公的財源で運用されるため、制度の公平性を担保する目的で、
“企業の労務管理が適切かどうか” を審査で確認する必要があります。
- 給与の計算が適正か
- 労働時間の管理が正確か
- 契約内容が明確か
- 法令違反がないか
これらがそろって初めて「助成金の対象となる企業」と判断されます。
4. 労務リスクを減らすために企業ができること
(1)月次で書類の突合を行う
- 出勤簿
- 賃金台帳
- 労働条件通知書
これらを月ごとに比較すると、大きなトラブルを防げます。
(2)契約内容をこまめに更新する
賃金変更・労働時間変更・契約更新などは、必ず書面に反映します。
(3)就業規則を現状に合わせて整備する
規定と現場の運用が一致しているか確認することが重要です。
(4)残業の実績と36協定を常に照合する
期限切れを放置しないことが大切です。
(5)不安がある場合は社労士に相談する
助成金申請は社労士の独占業務であり、
労務管理の確認や法令に関するアドバイスを得ることでリスクを大幅に減らせます。
5. 助成金は“労務管理の健全さ”が基礎になる
助成金は、会社の労務管理が整っているほどスムーズに活用できます。
- 書類の整合性
- 契約内容の明確化
- 残業管理
- 雇用保険加入
これらはすべて助成金の審査で確認されるポイントです。
日常業務の中で少しずつ整備していくことで、助成金を安全に活用できる企業体質をつくることができます。
