助成金は返済不要の制度である一方、誤った認識や不十分な労務管理によって“意図せぬ不正受給”に該当するケースが後を絶ちません。
不正受給と判断された場合、返還だけでなく追加のペナルティも課され、企業にとって大きなリスクとなります。

ここでは、助成金を安全に活用するために知っておきたい不正受給の仕組みと、避けるためのポイントをわかりやすく解説します。


1. 助成金の不正受給とは?

厚生労働省は不正受給を次のように定義しています。

「助成金の受給に際し、虚偽の内容を申請したり、必要な要件を満たしていないにもかかわらず受給する行為」

意図的な虚偽申請だけではなく、

  • 誤った労務管理
  • 要件理解不足
  • 書類の不備
    などが原因で起こる“非故意の不正受給”も含まれます。

「悪意がなかった」では済まないため、制度の正しい理解が不可欠です。


2. 不正受給が企業にもたらす主なリスク

(1)助成金の返還

受給した金額は全額返還が求められます。

(2)不支給決定・加算金(最大20%)

返還だけでなく、状況に応じて最大20%の加算金が上乗せされる場合があります。

(3)企業名の公表

不正内容が悪質または重大と判断された場合、
厚生労働省や労働局のホームページで企業名が公表される可能性があります。

(4)今後の助成金申請が一定期間不可に

不正が確認されると、数年間にわたり申請できなくなるケースがあります。

(5)金融機関・信用調査への影響

  • 企業調査で不正受給が確認される
  • 信用低下により融資審査へ影響
    といった二次的なリスクも発生します。

3. 不正受給が起こりやすい典型的パターン

(1)労働時間・出勤簿の不整合

  • タイムカードと賃金台帳が一致しない
  • 36協定の範囲外の残業が放置されている

これは最も多いトラブルのひとつです。

(2)雇用契約書の未整備

助成金の審査では
「契約内容」「実態」「給与」
が整合していることが重視されます。

(3)要件の読み違い

例:

  • “訓練実施”としながら実際の内容が要件を満たしていない
  • “正社員転換”の定義が基準とズレている
    など。

(4)外部業者の誤案内による申請

株式会社などが助成金申請の代行を「営業」し、
実際には要件を満たさないものを申請してしまうケースも見られます。

後述しますが、助成金申請の代行は社会保険労務士のみが独占業務として行えるものであり、ここがトラブルの原因にもなっています。


4. 不正受給を防ぐために企業が行うべき対策

(1)労務管理を正しく整備する

助成金の審査は「書類の整合性」がすべてです。

  • 雇用契約書
  • 就業規則
  • 出勤簿
  • 賃金台帳
  • 36協定

これらが一致しているかどうかが最重要ポイントになります。

(2)要件を必ず一次情報で確認する

必ず厚生労働省や労働局の公式資料で確認することが重要です。

(3)“株式会社の営業代行”を利用しない

助成金申請の代行は社労士独占業務であり、
株式会社が営業して申請書類を作成し、提携社労士へ流す行為も法令上問題があります。

「会社名で営業 → 実務は提携社労士に丸投げ」
という構造は、行政からも注意喚起されています。

(4)不安がある場合は社労士へ直接依頼する

助成金は制度が複雑なため、労務管理と要件の整合を確認しながら進める必要があります。
専門家に相談することで不正受給を未然に防げます。


5. まとめ

助成金は中小企業にとって心強い制度ですが、
正しい理解と適切な労務管理が備わっていないと、思わぬリスクを招くことがあります。

特に“不正受給”と判断された場合の影響は大きいため、

  • 書類の整合性
  • 正しい制度理解
  • 適切な専門家の活用
    を意識し、安全に活用することがとても重要です。